負け犬の遠吠えはしたくない…
英語の勉強をしている人なら、皆、コンプレックスに苦しんでいるはずである。
私も、そのひとり。
自分よりも英語が上手な人は、私の会社だけでも、はいて捨てるほどいる。
上をみてもきりがないのだ。
それでも、いざ、素行が悪くても英語ができることで、チヤホヤさせる輩を見ると、内なるコンプレックスがメラメラと沸いてくる。
「英語ができるからって、いい気になるなよ」
そんな風に言ってやりたい。
実は、私は、現在50歳であるが、40歳半ばで、激しい英語のコンプレックスにさいなまされたことがある。
私の職場に、ある女性が配属されたことがきっかけである。
その女性、仮に、Hさんとしておこう。
このHさん、入社してから、まだ2年と経っていないのだが、なんというか、某外語大学卒業、TOEIC950を持っていた。私の部下になる前にいた職場でも、彼女の「英語力」に一目を置かれていたようである。
この時、私のTOEICスコアは595点、目標としていた600点の壁を突破できずにもがき苦しんでいた頃である。
けれども、私は、「英検2級」を、男の勲章として、一応、職場では、「英語ができる側の人」として頼られていた節がある。
けれども、Hさんが来て、私のメッキがもろくも崩れ去った。
それまで英語のことといえば、私を頼りにしていた同僚が、手のひらを介したように、Hさんに頼りだしたのだ。
その際、
「やはり、Hさんはすごいな。さすが外大卒だね」
なんて、私がカチンとくるような言葉を平気で耳にするようになった。
ただし、Hさんは、それはそれで素行に問題がある人だった。
まずもって、休暇は労働者の当然の権利とばかりに、忙しい時に限って、バンバン有休を入れる人であった。
それだけならまだしも、仕事上で大事なアポについても、ドタキャンが多かった。
きっと、前の職場で、こういう場合の部下指導はいっさいしていないのだろう。
彼女にヘソを曲がられたら、せっかく重宝している、生ける英語ツールを失いかねない、そんな憂慮もあったことは想像に難しくない。
(私の職場でも、管理者が彼女の素行に及び腰だったのも、そんな理由からであったのだろう)
もちろん、誰かが彼女に対して「教育」しなくてはいけない。
意を決して、私が鬼になって、Hさんの指導役を買って出ようと。
ただ、私も、躊躇していた。この時、すでに英語の勉強をやっていたからだ。
彼女へ厳しく当たるのも、彼女の語学の才能へのやっかみからではないだろうか。
もちろん、彼女だって、これまで、血のにじむような努力をして、英語スキルを身に付けていたのだろう。
そこにたどり着くだけの努力を想像することが、私にはできなかった。
また、彼女は彼女なりに「英語に対してのコンプレックス」を持っている、と言っていた。
人が羨むような才能ですら、コンプレックスの罠から逃れられない。
コンプレックスを克服する方法はあるのだろうか?
「英語の勉強をがんばること」
唯一のやり方は、これしかない。
私は、Hさんに対する、才能への嫉妬を、自分の勉強の動議づけに変えた。
それまで、生ぬるかった勉強法を見直し、朝型人間にシフトして、我流の勉強から、通信講座や問題集に主軸に据えるように改めた。
Hさんとは2年間、仕事上のお付き合いだった。
彼女は、その後、本社勤めを経て、現在は、海外赴任をしている。
私は、彼女が憎くて、羨まして、そして、本当は好きだったのかもしれない。
敵を作るのではなく、敵を利用し、敵を愛せ。
コンプレックスに打ち勝つ唯一の方法は、「本人の努力」これに尽きるようである。